この記事の要点
- 補聴器の費用を軽くする道は3つあります。聴覚障害による身体障害者手帳がある方は「補装具費支給制度」、手帳がない方は市区町村の高齢者向けの助成、そしてどちらの方も使えるのが医療費控除です。
- 補装具費支給制度は障害者総合支援法にもとづく制度で、実施主体は市町村です。利用者負担は原則定率1割負担で、負担上限月額は生活保護世帯と市町村民税非課税世帯が0円、市町村民税課税世帯が37,200円と決められています(厚生労働省「補装具費支給制度の概要」)。補装具の種目の一覧に補聴器が入っています。
- 手帳がない方向けの助成は、市区町村ごとに中身が違います。大田区は満65歳以上で聴覚障害による身体障害者手帳を持たず、耳鼻咽喉科の医師が使用を必要と認めた方に、一人1回につき50,000円を限度に助成しています(大田区「高齢者補聴器購入費助成」)。
- 購入する前に申請が必要な自治体があります。大田区は「購入前に申請書の提出が必要」と明記しています。松戸市も、購入の前に高齢者支援課へ相談して申請書と医師の証明書を入手する流れです(松戸市「高齢者補聴器購入費助成制度」)。買ってから知ると間に合わないことがあります。
- 医療費控除は、学会が認定した補聴器相談医が「補聴器適合に関する診療情報提供書(2018)」で補聴器が診療等のために直接必要だと証明している場合に対象になります(国税庁「補聴器の購入費用に係る医療費控除の取扱いについて(情報)」平成30年4月16日)。
- 聞こえにくいと感じたときの順番は「まず受診」です。国民生活センターは「聞こえにくいと感じたら、まず専門医の診断を受けましょう」と呼びかけています(国民生活センター「補聴器トラブルを防ぎましょう!」2021年2月25日公表)。
補聴器のお金を軽くする3つの道
「補聴器を勧められたけれど、思っていたより高くて迷っている」。そんなときに最初に確かめたいのは、自分がどの制度の入口に立っているかです。道は大きく3つに分かれます。

聴覚障害による身体障害者手帳がある方は補装具費支給制度
国の制度が「補装具費支給制度」です。厚生労働省の説明では、対象者は「補装具を必要とする障害者、障害児、難病患者等」で、実施主体は市町村。補装具の種目の一覧に補聴器が挙げられています(厚生労働省「補装具費支給制度の概要」)。くわしい申請の流れは手順3で説明します。
手帳がない方は市区町村の高齢者向け助成
手帳の交付を受けていない方でも、市区町村が独自に費用の一部を助成していることがあります。大田区は要件のひとつに「聴覚障害による身体障害者手帳を所持していないこと」を挙げています(大田区「高齢者補聴器購入費助成」)。松戸市も「聴覚障害の身体障害者手帳の交付を受けていない方」を対象にしています(松戸市「高齢者補聴器購入費助成制度」)。つまり「手帳がないから無理」と決める必要はありません。
どちらの方も使えるのが医療費控除
3つ目は、確定申告で使う医療費控除です。国税庁は、補聴器相談医が「補聴器適合に関する診療情報提供書(2018)」で補聴器が診療等のために直接必要である旨を証明している場合、その購入費用は「一般的に支出される水準を著しく超えない部分の金額に限り」医療費控除の対象になると回答しています(国税庁「補聴器の購入費用に係る医療費控除の取扱いについて(情報)」平成30年4月16日)。
3つのうちどれを使う場合でも、出発点は同じで「耳鼻咽喉科の受診」です。次の手順1から順に見ていきます。
手順1〜2|耳鼻咽喉科を受診して、補聴器相談医の書類をもらう
買うお店を探すより先に、医療機関です。ここを飛ばすと、助成も控除も届かないことがあります。

手順1|聞こえにくいと感じたら、まず専門医の診断を受ける
国民生活センターは、消費者へのアドバイスの1つ目に「聞こえにくいと感じたら、まず専門医の診断を受けましょう」を挙げています(国民生活センター「補聴器トラブルを防ぎましょう!」2021年2月25日公表)。
自治体の助成でも、医師がかかわることが要件になっています。大田区は「耳鼻咽喉科の医師が補聴器の使用を必要と認めていること」、松戸市は「耳鼻咽喉科の医師により、補聴器使用が必要と診断された方」と書いています。受診は、制度を使うための最初の一歩でもあるわけです。
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手順2|補聴器相談医から「診療情報提供書(2018)」を受け取る
医療費控除まで考えるなら、受診先を選ぶときに「補聴器相談医」がいるかどうかを見てください。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会は、手順をこう説明しています(日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「補聴器購入者が医療費控除を受けるために」)。
- 「補聴器相談医」の資格を有する耳鼻咽喉科医療機関を受診し、必要な問診・検査を受ける。
- 補聴器が必要と証明された場合、補聴器相談医が「補聴器適合に関する診療情報提供書(2018)」を作成する。
- その書類を持って「認定補聴器専門店」に行き、購入の際に書類の写しと領収書を受け取る。
- 当該年度の確定申告の際に医療費控除として申告する。
補聴器相談医は、学会が都道府県別の名簿を公開しています(日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「補聴器相談医名簿」)。かかりつけの耳鼻咽喉科が名簿にあるかを、家族に調べてもらうのもよい方法です。
手順3|手帳がある方は補装具費支給制度を市町村に申請する
聴覚障害による身体障害者手帳がある場合は、国の補装具費支給制度が使えます。厚生労働省のページにある流れと負担の決まりを、そのまま確かめておきましょう。

申請から支給までの流れ
厚生労働省は申請方法をこう書いています。「障害者又は障害児の保護者が市町村長に申請し、身体障害者更生相談所等の判定又は意見に基づく市町村長の決定により、補装具費の支給を受ける」(厚生労働省「補装具費支給制度の概要」)。
窓口は市町村の障害福祉の担当課です。判定や意見を挟むため、申請したその日に決まるものではありません。使い始めたい時期があるなら、早めに相談しておくと落ち着いて進められます。
利用者負担と負担上限月額
利用者負担は「原則定率1割負担」で、世帯の所得に応じて負担上限月額が決められています。同じページの表では、生活保護世帯に属する者が0円、市町村民税非課税世帯が0円、市町村民税課税世帯が37,200円です。
さらに注意書きとして、「障害者又はその配偶者のうち市町村民税所得割の最多納税者の納税額が46万円以上の場合には補装具費の支給対象外とする」とあります。世帯の所得によっては制度の外になるため、ここは窓口で必ず確認してください。
補聴器は補装具の種目に入っている
同じページの参考欄にある補装具の種目一覧には、義肢や装具などと並んで「補聴器」が挙げられています。「補聴器は対象なのか」という疑問は、この一覧で確かめられます。
手順4|手帳がない方は市区町村の高齢者向け助成を調べる
ここがいちばん見落とされやすいところです。手帳がない方向けの助成は国の一律の制度ではなく、市区町村ごとの制度です。だから、隣の市とも中身が違います。

大田区の例
大田区の「高齢者補聴器購入費助成」は、要件として「満65歳以上であること」「大田区内に住所を有し、現に居住していること」「聴覚障害による身体障害者手帳を所持していないこと」「耳鼻咽喉科の医師が補聴器の使用を必要と認めていること」を挙げています。助成は「一人1回につき、50,000円を限度に助成」「助成は一人あたり5年間に1回」で、申請書には耳鼻咽喉科医師の意見が必要で、購入前に申請書の提出が必要とされています。窓口は地域福祉課の高齢者地域支援担当です(大田区「高齢者補聴器購入費助成」2026年4月1日更新)。
松戸市の例
松戸市の「高齢者補聴器購入費助成制度」は、「補聴器購入日において、松戸市に住民票がある65歳以上の方」「聴覚障害の身体障害者手帳の交付を受けていない方」「耳鼻咽喉科の医師により、補聴器使用が必要と診断された方」「市民税非課税世帯の方」「過去にこの助成を受けていない方」を対象にしています。助成額は「医療機器認定を取得した補聴器本体の購入費用と3万円を比較し低いほうの額(上限3万円、1回限り)」で、申請期限は「補聴器購入日の翌日から起算して1年以内」。窓口は高齢者支援課(電話047-366-7346)です(松戸市「高齢者補聴器購入費助成制度」2026年4月1日更新)。
自分の市区町村を調べる順番
2つの例を見ると、確かめる項目はほぼ同じです。自分の住む市区町村では次の5つを順番に確認してください。
- 年齢(65歳以上かどうか)
- 住民票(その市区町村に住んでいるか)
- 聴覚障害による身体障害者手帳を持っていないか
- 耳鼻咽喉科の医師の意見や証明があるか
- 所得の要件(市民税非課税世帯に限る自治体もある)
調べ方は、市区町村のホームページで「高齢者 補聴器 助成」と入れて探すのが早いです。見つからないときは、高齢者福祉の担当課に電話で「高齢者向けの補聴器の助成はありますか」と聞けば済みます。制度がない自治体もあるため、その場合は手順6の医療費控除に進みます。
手順5|買う前に申請する
助成金でいちばん多いつまずきが、順番の取り違えです。「安くなる制度があると後から知った」では間に合わないことがあります。

購入前の申請を求める自治体がある
大田区は「購入前に申請書の提出が必要です」と明記しています。松戸市は、購入の前に高齢者支援課へ相談し、申請書と市が指定する様式の医師の証明書を入手してから購入する流れで、申請期限は購入日の翌日から1年以内です。
安全な順番
つまり、お店に行く前に一度、役所に寄る(または電話する)のが安全です。順番をまとめると次のようになります。
- 耳鼻咽喉科を受診する。
- 市区町村の担当課に助成の有無と必要書類を確認する。
- 申請書と医師の意見書・証明書をそろえて提出する。
- 案内にしたがって購入する。
- 領収書を保管し、案内された期限内に手続きを終える。
補装具費支給制度の場合も、判定や意見を経て市町村長が決定する仕組みなので、購入を先に済ませてしまわないことが大切です。迷ったら「買う前に窓口へ」と覚えてください。
手順6|医療費控除の書類をそろえる
助成が受けられなかった方、助成の上限を超えて自己負担が残った方には、医療費控除という道が残ります。ここは書類の要件がはっきりしています。

国税庁が示している条件
国税庁の回答は、「医師による診療や治療などのために直接必要な補聴器の購入のための費用で、一般的に支出される水準を著しく超えない部分の金額は、医療費控除の対象となります」としています。そして、補聴器が診療等のために直接必要かどうかは医師の判断に基づく必要があるため、学会が認定した補聴器相談医が「補聴器適合に関する診療情報提供書(2018)」により証明している場合には対象になると書かれています(国税庁「補聴器の購入費用に係る医療費控除の取扱いについて(情報)」平成30年4月16日)。
買うお店にも条件がある
学会のページには、見落としやすい注意が書かれています。「認定補聴器専門店」には「認定補聴器技能者」が在籍していて、「認定補聴器専門店もしくは認定補聴器技能者以外から補聴器を購入した場合には、医療費控除を受けることができません」という説明です(日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「補聴器購入者が医療費控除を受けるために」)。控除まで考えるなら、買う場所も先に決めておく必要があります。
保管する書類
学会のページは、税務署から求められた場合に「補聴器適合に関する診療情報提供書(2018)」の写しと領収書の提出が必要になるため、大切に保管するよう案内しています。封筒を1つ用意して、診療情報提供書の写し・領収書・助成の通知をまとめて入れておくと、申告のときに探し回らずに済みます。
医療費控除そのものの進め方は、シニアの確定申告|ChatGPTで医療費控除と年金書類を準備で手順をまとめています。
手順7|試してから決める
制度の話とは別に、買い方そのものの注意も知っておきたいところです。国民生活センターは2021年2月25日に「補聴器トラブルを防ぎましょう!-買ったが合わず返品もできない、医師に不要と言われた…-」を公表しています。

相談は毎年500件を超えている
同センターに寄せられた補聴器に関する相談件数は、2015年度が598件、2016年度が575件、2017年度が538件、2018年度が542件、2019年度が628件で、2021年1月31日までに442件です(国民生活センター「補聴器トラブルを防ぎましょう!」2021年2月25日公表)。珍しい話ではない、ということです。
4つのアドバイス
同じ資料の消費者へのアドバイスは次の4つです。
- 聞こえにくいと感じたら、まず専門医の診断を受けましょう。
- 契約前に自分に合った機器かどうかしっかり確認しましょう。
- 通信販売では、事前に試用できないリスクや詐欺サイトに注意しましょう。
- トラブルになった場合は、最寄りの消費生活センター等に相談しましょう。
大事なのは2つ目です。買ってすぐに満足できるとは限らないので、試聴して、合わなければ販売店に相談して調整してもらうという行き来を前提にしておくと、気持ちが楽になります。それでも解決しないときは、消費生活センターに相談する道があります。
なお、補聴器を買うかどうかを決める前に、手持ちのスマホでできることを試してみるのも一案です。テレビや電話の音を聞き取りやすくする機能は、聞こえを助けるスマホ機能5つ|iPhone・Android手順で手順を紹介しています。補聴器の代わりになるものではありませんが、受診までの間の助けにはなります。
家族が代わりにできること
離れて暮らす家族が手伝えることは、はっきりしています。
- 市区町村の制度を調べる。ホームページで「高齢者 補聴器 助成」を探し、なければ高齢者福祉の担当課に電話して確認する。
- 補聴器相談医を探す。学会の都道府県別の名簿で、通いやすい医療機関を見つけておく。
- 順番を伝える。「買う前に役所に申請」という一点だけでも伝われば、助成を取りこぼしにくくなります。
- 書類を1か所にまとめる。診療情報提供書の写し、領収書、助成の通知を同じ封筒に入れておく。
本人が電話で問い合わせるのが負担なときは、家族が代わりに要件を聞いて、必要書類のメモを渡すだけでも十分な助けになります。
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よくある質問
Q. 身体障害者手帳がなくても助成は受けられますか。
市区町村の高齢者向けの助成なら、手帳がないことが要件になっている例があります。大田区は「聴覚障害による身体障害者手帳を所持していないこと」、松戸市は「聴覚障害の身体障害者手帳の交付を受けていない方」を対象にしています。ただし制度の有無も金額も自治体ごとに違うので、お住まいの市区町村で確認してください。
Q. 補装具費支給制度の自己負担はいくらですか。
厚生労働省の説明では、利用者負担は原則定率1割負担で、負担上限月額は生活保護世帯に属する者と市町村民税非課税世帯が0円、市町村民税課税世帯が37,200円です。なお、市町村民税所得割の最多納税者の納税額が46万円以上の場合は支給対象外とされています。
Q. 買ってしまってからでも助成を申請できますか。
自治体によります。大田区は購入前に申請書の提出が必要とされています。松戸市は購入前に相談して申請書と医師の証明書を入手する流れで、申請期限は購入日の翌日から1年以内です。買う前に窓口へ確認するのが確実です。
Q. 医療費控除を受けるには何が必要ですか。
学会が認定した補聴器相談医の「補聴器適合に関する診療情報提供書(2018)」で、補聴器が診療等のために直接必要である旨が証明されていることが前提です。学会は、認定補聴器専門店もしくは認定補聴器技能者以外から購入した場合は医療費控除を受けられないと案内しています。書類の写しと領収書は、税務署から求められた場合に提出できるよう保管してください。
Q. 助成金と医療費控除は両方使えますか。
制度の趣旨が違うため、要件を満たせば助成を受けたうえで確定申告をすることもあります。ただし助成で補われた分の扱いは申告の内容によって変わるため、自己負担の額が分かる領収書と助成の通知を持って、税務署または市区町村の窓口で確認してください。
Q. 集音器でもよいのでしょうか。
補聴器と集音器は別のものです。国民生活センターは、聞こえにくいと感じたらまず専門医の診断を受けること、契約前に自分に合った機器かどうか確認することを呼びかけています。助成や医療費控除の対象になるかどうかも制度の要件で決まるため、受診と窓口での確認を先に済ませてください。
参考・出典
- 厚生労働省「補装具費支給制度の概要」(対象者・実施主体・申請方法・利用者負担と負担上限月額・補装具の種目一覧)
- 国税庁「補聴器の購入費用に係る医療費控除の取扱いについて(情報)」個人課税課情報第3号・平成30年4月16日
- 一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「補聴器購入者が医療費控除を受けるために」
- 一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「補聴器相談医名簿」
- 大田区「高齢者補聴器購入費助成」(2026年4月1日更新)
- 松戸市「高齢者補聴器購入費助成制度」(2026年4月1日更新)
- 独立行政法人国民生活センター「補聴器トラブルを防ぎましょう!-買ったが合わず返品もできない、医師に不要と言われた…-」2021年2月25日公表
制度の要件・金額・受付期間は変わることがあります。申請の前に、お住まいの市区町村の窓口と各公式ページで最新の内容をご確認ください。この記事は制度と手続きの案内で、聞こえの症状や治療についての判断は医療機関にご相談ください。